第539回 共学校の速さ 6
「第539回 共学校の速さ 6」
前回まで5回にわたって近年の男女共学校の中学入試から、「速さ」の単元の問題を見てきました。
今回は「速さ」の最終回として、図形とも関連のある「点の移動」をテーマとした問題を取り扱おうと思います。
ご紹介する問題は、2021年度の中学入試で出されたものから選びました。
【問題】
図1のようにAB=20cm、AD=24cmの長方形ABCDがあります。点Pは、Aを出発して、A→D→C→B→Aの順に長方形の辺上を一定の速さで動き、Aに到着したら停止します。点Qは、点Pと同時にAを出発して、A→B→C→D→Aの順に長方形の辺上を一定の速さで動き、Aに到着したら停止します。ただし、Pの方がQより速く動きます。このとき、3点B、C、Qを頂点とする三角形の面積と、3点C、D、Pを頂点とする三角形の面積の和をScm2とします。ただし、3つの点が三角形をつくらない場合は、面積は0cm2とします。2点P、Qが動き始めてから停止するまでの時間とSの関係は、図2のようになりました。
このとき、次の各問いに答えなさい。
(1) 点PがDに到着するまでにかかる時間は、点QがBに到着するまでにかかる時間より何秒早いまたは何秒遅いですか。
(2) ア、イにあてはまる数は、それぞれいくつですか。
(3) 点Pが辺BC上にあるときを考えます。3点A、B、Pを頂点とする三角形の面積と、3点A、B、Qを頂点とする三角形の面積の差が100cm2になるのは、2点P、Qが動き始めてから何秒後ですか。考えられるものをすべて答えなさい。
(渋谷教育学園幕張中学校 2021年 問題3 問題文一部変更)
【考え方】
(1)
グラフが曲がるとき、どのような図形になっているかを考えます。
はじめにグラフが曲がるのはS=60となるときです。
しかし、速さはPの方がQよりも速いのですが、距離はPが移動する辺ADの方がQが移動する辺ABよりも長いため、どちらの点が先に長方形の頂点に着くかはわかりません。
そこで、この2つの可能性について図をかいてみます。
左図の場合
QB×24cm÷2=60cm2
QB=5cm
AQ=15cm
↓
移動距離 P:Q=24cm:15cm=8:5
右図の場合
PD×20cm÷2=60cm2
PD=6cm
AP=18cm
↓
移動距離 P:Q=18cm:20cm=9:10
この2つの可能性のうち、問題の「Pの方がQより速く動きます」という条件に適するのは、左図の場合です。
そこで、「移動距離 P:Q=8:5」を用いて、一方の点が長方形の頂点に着いたときの図を順にかいていきます。
上の最後の図(2段目右)を見ると、点Qが頂点Dから頂点Aに移動する間はSの値が変化しないことに気づけます。
従って、問題で与えられているグラフより、点Qが頂点Dに着くのが12.8秒後であるとわかります。
(20cm+24cm+20cm)÷12.8秒=5cm/秒 … 点Qの速さ
5cm/秒×8/5=8cm/秒 … 点Pの速さ
24cm÷8cm/秒=3秒 … 点PがDに到着するまでにかかる時間
20cm÷5cm/秒=4秒 … 点QがBに到着するまでにかかる時間
4秒-3秒=1秒
答え 1秒早い
なお、速さは点Pの方が点Qより速いので、点Pが1周(=88cm)したときに点Qは
88cm×5/8=55cm=20cm+24cm+11cm
移動することを計算して、2段目中央の図をすぐにかいてもOKです。
(2)
ア、イはグラフが曲がる4つ目の点(除:0秒後)ですから、(1)でかいた「Pが頂点Bに着いている」ときの図(1段目右)です。
(24cm+20cm+24cm)÷8cm/秒=8.5秒
答え ア 240、イ 8.5
(3)
(1)でかいた「Pが頂点Cに着いている」ときの図と「Pが頂点Bに着いている」ときの図より、点PがBC上にあるとき、点QもBC上にあることがわかります。
100cm2×2÷20cm=10cm … PQの長さ
1回目
点Pと点Qが移動した距離の和 (20cm+24cm)×2-10cm=78cm
78cm÷(8cm/秒+5cm/秒)=6秒後
2回目
点Pと点Qが移動した距離の和 (20cm+24cm)×2+10cm=98cm
98cm÷(8cm/秒+5cm/秒)=7 7/13秒後
答え 6秒後、7 7/13秒後
本問は、12.8秒後の図を得ることができるかどうかが、正解の鍵を握っていました。
図を得ることができれば、点Pと点Qの速さが求められますので、(1)、(2)を正解することは難しくありませんし、また、(3)も2点の動きの和に着目する、図形問題と旅人算を組み合わせた定番の問題でしたので、これも正解できると思います。
今回は、速さと平面図形の両方の要素を持つ「点の移動」について考えました。
2つの分野にまたがっているだけに、点の移動の問題が苦手なことも少なくないでしょう。
特に、本問の(1)のようにいくつかの可能性がでてくると「どれが正しいのだろう…?」と悩んでしまって手が止まってしまうことも多いと思います。
そのようなときは、とりあえずすべての可能性について調べてみることから始めましょう。
最初は苦労すると思いますが、そうやって「手を動かす」ことを積み重ねていくことで、どの場合が一番正解の可能性が高いかに気づきやすくなると思います。