第496回 合否を分ける問題の解き方 図形の回転移動 1
「第496回 合否を分ける問題の解き方 図形の回転移動 1」
中学入試の合否を分ける問題について見ています。
前回までは、グラフの読み取りが大切な問題について考えてきましたが、今回からは作図がポイントとなる問題を取り扱っていこうと思います。
その1回目は、「直線上を転がる四角形」の問題です。
中学入試では、作図自体が採点の対象となることもありますし、作図を元にした計算を求める問題がしばしば出されますので、「作図力」は重要な学習事項です。
【基本問題】
下の図のように、AB=4cm、BC=3cm、AC=5cmである長方形ABCDを、直線L上にそって矢印の向きにすべらないように転がします。辺BCが再び直線Lと重なるまでに、頂点Aが動いた長さは何cmですか。(円周率は3.14)
【解答例】
「直線上を転がる四角形」の問題では、「回転の中心が移り変わっていく」という特徴があります。
作図をするときは、その中心の移り変わりの順に図をかいていくようにします。
その際に、頂点の記号もかいておくと正確な作図ができます。
上の図のおうぎ形に着目すると、頂点Aが動いた長さは、
10cm×3.14×1/4+6cm×3.14×1/4+0cm+8cm×3.14×1/4=24cm×3.14×1/4=18.84cm
とわかります。
では、中学入試の合否を分ける問題から、「直線上を転がる四角形」がテーマの問題を見てみましょう。
出題校は、淑徳与野中学校です。
2019年度 淑徳与野中学校 入試問題 第1回 算数より
問題5-(3) 下の図のように、1辺の長さが4cmの正方形ABCDがあります。正方形ABCDを直線に沿って、矢印の方向にすべらないように転がします。頂点Aが初めて直線に重なるまで転がしたとき、次の問いに答えなさい。
① 対角線ACが動いた部分を図示し、斜線をかきなさい。
② ①の斜線部分の面積は何cm2ですか。
【解答例】
(3)-①
基本問題と同じように、回転の中心の移り変わりの順に図をかいていきます。
これで、「斜線部分の面積を求めればOK」となりそうなのですが、基本問題が「頂点の動いた長さ」であったのに対し、本問は「対角線が動いた部分の面積」を求めなければいけません。
このような場合は、「回転の中心から最も遠い点と最も近い点の動き」をかく必要があります。
図2で「回転の中心から最も近い点」は頂点Cで動きませんすから、対角線ACが動いた部分はおうぎ形AOAです。
しかし、図3では「回転の中心から最も近い点」は対角線ACの真ん中の点(正方形ABCDの2本の対角線の交点)ですから、対角線ACが動いた部分は次のようになります。
従って、①の解答は次の図です。
(3)-②
①の解答図で、赤色斜線の部分と水色斜線の部分の面積を求めます。
AC=□cmとすると、
□cm×□cm×1/2=正方形ABCDの面積=16cm2
ですから、
□cm×□cm=32cm2
です。
従って、赤色斜線の部分の面積は、
□cm×□cm×3.14×1/4=32cm2×3.14×1/4=25.12cm2
です。
水色斜線の部分の面積は、下の図のように等積移動すると計算がしやすいです。
4cm×4cm×3.14×1/4-25.12cm2×1/4=6.28cm2
赤色斜線の部分の面積+水色斜線の部分の面積=25.12cm2+6.28cm2=31.4cm2
※解答例以外に、「重なりを引く」や「相似比と面積比・ケーキの法則」などを利用しても、斜線部分の面積を求めることができます。
基本問題が「1点の動き」だけを作図するのに対し、本問は「回転の中心から最も遠い点と最も近い点」の2点の動きを作図する問題でした。
さらに、「等積移動」や「重なりは引く」、「半径がわからない円の面積の求め方」という知識(実際の入試問題では、問題5-(2)が半径のわからない円の面積についての問題で、(3)の誘導となっていました)も必要です。
作図についても、問題を構成している個々の要素は、基本問題のレベルですが、それらが組み合わさると中学入試で合否を分けるレベルの問題となりますので、基本問題を学ぶときに正確な作図力が身につくように練習をしていきましょう。