第493回 合否を分ける問題の解き方 点の移動とグラフ
「第493回 合否を分ける問題の解き方 点の移動とグラフ」
これまで、中学入試の合否を分ける算数の問題として、「流水算」、「旅人算」という速さをテーマにした問題を見てきました。
今回は、速さと図形の2つの分野が融合している「点の移動とグラフ」を取り扱おうと思います。
「点の移動とグラフ」の問題では、グラフの読み取りが重要なポイントです。
そのことを、基本問題で見てみましょう。
【基本問題】
点Pは、図の長方形ABCDの辺上を、毎秒2cmの速さでB→C→D→Aの順に動きます。下のグラフは、そのときの三角形ABPの面積の変化の様子を表したものです。次の問いに答えなさい。
(1) BCの長さは何cmですか。
(2) ABの長さは何cmですか。
【解答例】
グラフの読み取りの基本は、グラフが曲がる点に着目することです。
図形上を点が動く基本問題では、動く点が図形の頂点に来たときにグラフが曲がります。
(1)
点PがBを出発して4秒後の様子を図にあらわします。
上の図より、BCの長さは点Pが4秒間に動いた距離と同じとわかります。
2cm/秒×4秒=8cm
(2)
(1)でわかったことを図に書き込みます。
上の図より、
8cm×AB×1/2=16cm2 → AB=4cm
とわかります。
このように、「点の移動とグラフ」の基本は、グラフが曲がるときにどのようになっているかを図に表すことです。
では、実際の中学入試から、「点の移動とグラフ」の問題を見てみます。
出題校は、2020年度の中学入試でも人気の高かった本郷中学校です。
2019年度 本郷中学校 入試問題 第1回 算数より
問題3 〔図Ⅰ〕のようなAD=20cmの長方形ABCDがあります。長方形の辺上を、点PはA→D→C→Bの順に、点QはB→C→D→Aの順に、それぞれ一定の速さで移動しました。〔図Ⅱ〕は点Aを出発した点Pが点Bに着くまでの三角形APBと三角形AQBの面積の差と時間の関係を表したグラフです。ただし、点P、Qは同時に出発し、点Pの速さは点Qの速さより速いものとします。このとき、次の問いに答えなさい。
(1) 点Pの速さは毎秒何cmですか。
(2) 辺ABの長さは何cmですか。
(3) 〔図Ⅱ〕のxの値はいくつですか。
【解答例】
(1)
与えられたグラフは「面積の差を表すグラフ」ですが、「グラフが曲がる点に着目して図に表す」というポイントは同じです。
「点P、Qは同時に出発し、点Pの速さは点Qの速さより速い」という条件がありますから、4秒後の図は次のようになります。
上の図より、点Pの速さが、
20cm÷4秒=5cm/秒
と求められます。
答え 毎秒5cm
(2)
5秒後から10秒後は面積の差がありませんから、底辺ABが共通な2つの三角形APBとAQBは、高さも同じになっているとわかります。
ですから、5秒後に点Qが頂点Cに、点PはCD上にあることになり、10秒後には点Pが頂点Cに、点QはCD上にあることになります。
上の図より、辺AB(=CD)の長さは、
5cm/秒×(10秒-4秒)=30cm
です。
答え 30cm
(3)
求めるxはグラフが曲がっている点での面積の差ですから、「点Pが頂点Bにあるとき」と「点Qが頂点Dにあるとき」のうちのいずれかです。
点Pは頂点Bに
10秒+20cm÷5cm/秒=14秒後
に着きます。
点Qの速さは「5秒後の図」から、
20cm÷5秒=4cm/秒
とわかりますから、頂点Dには
5秒+30cm÷4cm/秒=12.5秒後
に着きます。
ですから、求めるxは、12.5秒後の2つの三角形の面積の差です。
※問題文の「〔図Ⅱ〕は点Aを出発した点Pが点Bに着くまでの~グラフ」という条件から、点Qが頂点Dに着く方が早いと考えてもOKです。)
このとき、BPの長さは、
5cm/秒×(14秒-12.5秒)=7.5cm
です。
30cm×7.5cm×1/2=112.5cm2 … 三角形APBの面積
30cm×20cm×1/2=300cm2 … 三角形AQBの面積
300cm2-112.5cm2=187.5cm2 → x=187.5
本問の正答率は、(1)が95.8%、(2)が77.2%、(3)が30.8%でした。
本郷中学校の2019年度の第1回入試は、受験者数474名、合格者数146名で、受験者の約30.8%が合格していますから、数値の上では、合格者は(3)までを正解したことになります。
(3)の正答率は(1)、(2)に比べて低いのですが、今回見てきましたように、その(3)も「グラフが曲がる点に着目して図に表す」という基本を守ると解くことができました。
(3)が(1)、(2)と違う点は、(1)、(2)の結果を利用して、「グラフが曲がる順=動く点が頂点に着く順」を丁寧に調べることが必要だったことです。
このように、速さと図形の2つの分野が融合している「点の移動とグラフ」の問題を解くときは、グラフが曲がるときにどのようになっているかを図に表すという基本(解法知識)に加えて、動く点が頂点に着く順を丁寧に調べること(作業)が大切になりますから、塾で学ぶいろいろな問題を通して、「作業」の経験値を高めておけるといいですね。