第484回 2020年度の中学入試 5
「第484回 2020年度の中学入試 5」
これまで、2020年度の中学入試から、関西エリアの灘中学校、首都圏の渋谷教育学園幕張中学校、浦和明の星女子中学校、男子御三家の開成中学校、女子御三家の桜蔭中学校の順に、入試問題をご紹介してきました。
2020年度の中学入試は、大学入試制度が新しくなるという背景があることから、「記述」問題や「思考力」問題の出題が予想されていましたが、ここまでの入試問題を見ると一定量出されていることがわかりました。
さて、今回は、近年志望者数が増加している大学の付属校の中から、慶應義塾中等部(注:慶應義塾では小学校から高校までの学校を「付属校」ではなく「一貫教育校」といいます)の問題を見ていこうと思います。
慶應義塾中等部の算数の例年の解答用紙は指定枠に数値を記入する特徴的なものですが、このような解答形式においてどのような「思考力」問題が出されたのでしょうか。
昨年度は大問6が「グラフの読み取り」、大問7が「場合の数」という「思考力」問題でしたが、今年度も7題中の大問6、7が「思考力」問題でした。
2020年度 慶應義塾中等部 入試問題 算数より
問題6 1辺が1cmの2種類の立方体A、Bがあります。立方体Aは重さが5gで表面が白く塗られていて、立方体Bは重さが7gで表面が黒く塗られています。次の( )に適当な数を入れなさい。
(1) 立方体Aと立方体Bを合わせて27個使って(図1)のような1辺が3cmの立方体を作りました。この立方体全体の重さは最も軽い場合で( ア )g、最も重い場合で( イ )gです。
(2) 次に、立方体Aと立方体Bを合わせて64個使って、1辺が4cmの立方体を作ったところ、その重さは378gでした。この立方体の表面全体のうち、黒く塗られている部分の面積の和は、最も小さい場合で( ア )cm2、最も大きい場合で( イ )cm2です。
【解答例】
(1)
(図1)の立体を「スライス解法」を用いて表します。
上の図で、「★」は、A(白)かB(黒)か、(図1)からは決められない立方体を表しています。
ですから、立方体全体の重さは最も軽い場合は「★」がA(白、5g)で、最も重い場合は「★」がB(黒、7g)のときです。
5g×21個+7g×6個=147g … ア
5g×13個+7g×14個=163g … イ
答え ア 147、イ 163
(2)
はじめに立方体B(黒)の個数を、「64個使った重さが378g」という条件から、つるかめ算で求めておきます。
(378g-5g×64個)÷(7g-5g)=29個
黒く塗られている部分の面積の和が最も小さくなるのは、この29個の立方体Bの面ができるだけ見えないようにした場合です。
上の図より、
1cm2×(0面×8個+1面×21個)=21cm2 … ア
黒く塗られている部分の面積の和が最も大きくなるのは、29個の立方体Bの面ができるだけ外から多く見えるようにした場合です。
上の図より、
1cm2×(3面×8個+2面×21個)=66cm2 … イ
答え ア 21、イ 66
(2)は見取り図が与えられていませんから、自分で図をかくか、書いたつもりで考えることになりますが、受験生は本問の類題を練習していると思いますので、「思考力」問題のなかでは「知識」に近い問題であったといえそうです。
もう1題の「思考力」問題は次のようなものでした。
問題7 1個180円のシュークリームと、1個220円のプリンがあります。シュークリーム5個のセットだと800円で買え、プリン6個のセットだと1200円で買えます。さらに、シュークリームとプリン2個ずつのセットだと650円で買うことができます。例えば、シュークリームを5個買う場合、シュークリーム5個のセットで800円で買うこともできますし、1個180円のシュークリームを5個で900円で買うこともできます。次の( )に適当な数を入れなさい。
(1) 5000円以内でプリンを少なくとも5個買うとき、シュークリームは最大( )個買えます。
(2) シュークリームとプリンを合わせて50個買って、代金がちょうど10000円になるような買い方を考えます。この条件の下で、プリンをできるだけ多く買いたい太郎君は、プリンを( ア )個買いました。また、同じ条件の下で、シュークリームをできるだけ多く買いたい二郎君は、シュークリームを( イ )個買いました。
【解答例】
(1)
問題の条件を整理すると次のようになります。
シュークリームをできるだけ多く買うためには、
① 1個あたりの値段が安いシュークリームを多く買う
② プリンの代金をできるだけ安くする
の2つが必要ですが、プリンは個数が決められていますので、②→①の順に考えていきます。
プリンを「バラ」で5個買うと
220円×5個=1100円
ですから、セットBを1セット買うよりも安くなります。
このときの残金は
5000円-1100円=3900円
ですから、「割安」なセットAでシュークリームを買うと
3900円÷800円=4セットあまり700円
より、
5個×4セット+バラ3個=23個
のシュークリームを買うことができます。
また、プリン5個をセットCと「バラ」で買うと
650円×2セット+220円×1個=1520円
です。
このときの残金は
5000円-1520円=3480円
ですから、「割安」なセットAでシュークリームを買うと
3480円÷800円=4セットあまり280円
より、
2個×2セット+5個
×4セット+バラ1個=25個
のシュークリームを買うことができます。
従って、(1)の答えは25個とわかります。
答え 25
(2)
太郞君はプリンの個数をできるだけ多くしたいので、「割安」なセットBをできるだけ多く買います。
10000円÷1200円=8セットあまり400円
400円=180円+220円
このとき、シュークリームが1個、プリンが
6個×8セット+1個=49個
買えて合計がちょうど50個となり、問題の条件にあてはまります。
二郎君はシュークリームの個数をできるだけ多くしたいのですが、「割高」な「バラ」でシュークリームを50個買っても
180円×50個=9000円
となり、問題の条件の10000円ちょうどになりません。
上の線分図より、シュークリームの個数をできるだけ多くするためには、「割高」なプリンをできるだけ少ない個数買って1000円以上にすればよいことがわかります。
シュークリームとプリンを「バラ」2個ずつ買うと
(180円+220円)×2個=800円
となり、セットCよりも「割高」ですから、「バラ」で買う方が問題の条件にあてはまりやすいとわかります。
(10000円-180円×50個)÷(220円-180円)=25個 … 「バラ」で買うプリンの個数
50個-25個=25個 … 「バラ」で買うシュークリームの個数
答え ア 49、イ 25
(2)のイの別解
10000円÷50個=200円 … 1個あたりの平均の値段
(180円+220円)÷2個=200円
から、シュークリームとプリンを「バラ」で買えばよさそうだと見当をつけてもよいと思います。
算数の入試問題には「日常生活」を題材としたものがありますが、本問も「セットは割安、バラ売りは割高」という感覚に「1個あたりの値段」という考え方を組み合わせ、そこから試行錯誤して解く問題でした。
このように、今回ご紹介しました慶應義塾中等部では今年度も「思考力」問題の出題がありました。
次回も2020年度の中学入試から、他の大学付属校の入試問題がどうであったのかを見ていこうと思います。