第497回 合否を分ける問題の解き方 図形の回転移動 2
「第497回 合否を分ける問題の解き方 図形の回転移動 2」
前回は、中学入試の合否を分ける問題の中から「直線上を転がる四角形」について見ました。
そこから図形の回転移動の問題のポイントは、正確な作図にあることがわかりました。
今回は、前回よりもさらに作図が難しい「円の内側にそって転がる三角形や四角形」の問題について考えてみようと思います。
出題校は神奈川県の男子御三家、栄光学園中学校です。
2019年度 栄光学園中学校 入試問題 算数より
問題1 次の問に答えなさい。ただし、円周率は3.14とします。
(1) 半径10cmの円の内部に1辺の長さが10cmの正三角形ABCが図1のようにあります。点Aをつけたまま、点Bが円周につくまで、正三角形を回転させます(図2)。
次に点Bをつけたまま、点Cが円周につくまで回転させます。このような回転を同じ向きに繰り返していきます。図1の位置からもとの位置に戻ってくるまで回転を6回繰り返したとき、点Bの動いた道すじの長さを、四捨五入して小数第2位まで求めなさい。
(2) 半径10cmの円の内部に1辺の長さが10cmの正方形ABCDが図3のようにあります。点Aをつけたまま、点Bが円周につくまで、正方形を回転させます(図4)。
(1)と同じように図3の位置からもとの位置に戻ってくるまで回転を6回繰り返します(点A~Dの位置は元に戻るとは限りません)。点Bの動いた道すじの長さを、四捨五入して小数第2位まで求めなさい。ただし、この正方形の対角線の長さは14.1cmとします。途中の式も書きなさい。
【解答例】
(1)
与えられた図の中に、点Bの動きをかいてみます。
このとき、点Aが円の中心になっていることに気をつけましょう。
ところで、円の半径と1辺の長さが同じ正三角形は、円の中にピッタリ6個はいります。
ですから、上の図より、1回に回転する角の大きさは60°であるとわかります。
さらに2回目、3回目の回転をかいていきます。
上の図のように、3回の回転で正三角形ABCは初めの位置(図1)と同じように、頂点Bが円の中心と重なりましたから、残り3回の回転は、はじめ3回の回転と同じ動きをすることになります。
ですから、点Bが動いた道すじの長さは、
20cm×3.14×1/6×2回×2周期=41.866… → 41.87cm
と求められます。
この問題では、回転の様子がわかるように図1、2が与えられていましたから、正確な作図は難しくないでしょう。
また、「3回の回転が1周期」ということに気づけば、計算も簡単にできますし、試験時間を節約することもできます。
ところで、円周にそって図形が転がる問題は、「直線上を転がる → 直線を曲げて円にする」という手順で考えることもできます。
上図(下)のように、直線上を回転する場合と円周にそって回転する場合では、「回転する角度は異なります」が「回転の中心の移り変わる順序は同じ」です。
本問では、回転の中心がA→B→C→A→B→Cと移り変わっていきますから、点Bは3回に1回の割合で回転の中心となって動かないことがわかります。
つまり、6回の回転のうち、
6回×2/3=4回
だけ点Bは回転することになります。
このことを利用すると、点Bが動いた道すじの長さは、
20cm×3.14×1/6×4回
という式でも求めることができます。
(2)
(1)の解答例の後半で見た「直線上を転がる → 直線を曲げて円にする」という考え方を利用してみましょう。
(2)でも回転の中心はA→B→C→D→A→Bと移り変わりますから、点Bは6回の回転のうち回転の中心になることが2回あります。
1回に回転する角度は、
のように30°です。
ただし、(1)の「図1→図2」では点Bも点Cも回転の半径は10cmですが、(2)の「図3→図4」では、点Bと点Dの回転の半径は10cm、点Cの回転の半径は正方形ABCDの対角線となっていることに注意が必要です。
点Bの場合、点Dが回転の中心となっているとき、回転の半径が正方形ABCDの対角線14.1cmになります。
点Dが回転の中心となる回数が1回ありますから、点Bが動いた道すじの長さは、
20cm×3.14×1/12×3回+28.2cm×3.14×1/12×1回=23.079 → 23.08cm
と計算できます。
本問の(2)は、正確な作図は難しいのですが、「直線上を転がる → 直線を曲げて円にする」という考え方を利用すると、問題で与えられた図を使うだけで答えを得ることができます。
ただし、「動く道すじをかきなさい」という問題も中学入試にはありますから、回転の中心の移り変わる順序に従って、点Bの動いた道すじを
のように作図できるようになっておくことは大切です。
その上で、「直線上を転がる → 直線を曲げて円にする」という考え方を身につけて、限られた試験時間でも正解が得られるように、これからの学習ができればいいなと思います。