第432回 2019年度 中学入試 7
「第432回 2019年度 中学入試 7」
これまでの3回は2019年度の中学入試の中から、渋谷教育学園幕張中学校、開成中学校、桜蔭中学校の入試問題をご紹介してきました。
今回は、男子御三家の麻布中学校の問題です。
麻布中学校の2019年度の入試状況は300名の募集に対し、出願者数が1037名、合格者数が376名、倍率2.76倍で、2018年度の倍率2.49倍(出願者数933名、合格者数378名)よりも厳しい競争となりました。
算数の入試問題は昨年より1問少ない大問5題の構成でしたが、試験用紙は3枚とボリュームに変化はないといえるものでした。
超難問はありませんでしたが、麻布中学校らしい正確な計算力と丁寧な処理、問題の条件を注意深く観察する力などを求める問題が多く、失点が許されないという点ではハードルの高いテストであったといえるかも知れません。
それでは、2019年度の麻布中学校の入試問題の中から2問をご紹介します。
1問目は正解が合格に欠かせない「旅人算」の問題です。
「速さと比」を習っていれば、新6年生でもチャレンジすることができる問題です。
2019年度 麻布中学校 入試問題 算数より
大問2 太朗君は、バスが走る道路沿いの道を通り学校へ通っています。ふだん、太朗君は7時50分に家を出発し、歩いて学校へ向かいます。すると、8時ちょうどに途中のA地点でバスに追い抜かれます。ある日、太朗君がふだんより3分遅く家を出発し、歩いて学校へ向かったところ、7時59分40秒にバスに追い抜かれました。太朗君の歩く速さとバスの速さはそれぞれ一定であり、バスは毎日同じ時刻にA地点を通過するものとします。以下の問いに答えなさい。
(1) 太朗君の歩く速さとバスの速さの比を、最も簡単な整数の比で答えなさい。
(2) 別の日、太朗君がふだんより3分遅く家を出発し、歩く速さの5/2倍の速さで走って学校に行ったところ、A地点より720m学校に近い地点でバスに追い抜かれました。ふだん太朗君が歩く速さは秒速何mですか。
【解答例】
(1)
時間の条件しかありませんので、ダイヤグラムに整理します。
ダイヤグラムは時間条件を利用して解く方法ですから、時間についてわかることを書き込みます。
上のグラフの中に「ダイヤグラム解法の大原則 直角三角形」が2つあり、その相似比がわかります。
上のグラフより、バスが太朗君の家の前を通過してから太朗君を追いこすまでの時間がわかります。
上のグラフより、
時間の比(ふだん) 太朗君:バス=10分:1分=10:1
↓
速さの比 太朗君:バス=1:10
(2)
(1)で速さの比がわかり、「720m」という距離の条件が加わりましたので、今度は線分図に整理してみます。
線分図に表すためには距離条件が必要ですから、バスの速さ、太朗君が歩く速さ、走る速さの比を連比で求め、これを距離条件に置き換えます。
上の連比からわかるように、速さの比 バス:走る=4:1 なので、距離の比も バス:走る=4:1です。
これらのことを線分図に表すと次のようになります。
上の線分図より、
③=720m
がわかり、この距離を太朗君は7時50分から8時までの600秒で歩きますから、
720m÷600秒=1.2m/秒
「時間条件 → ダイヤグラムに整理」という速さの基本に従うと、(1)の正解は難しくありませんし、(1)がわかると(2)は比較的簡単に解くことができますから、この大問2は合格するためには落とすことのできない問題だったと言えそうです。
この問題のように、難関中で正解が求められる問題を解くためには、グラフの読み方、線分図における同時マークの使い方といった基本解法が身についていることが必要です。
「速さと比」を習っていてもこの問題が正解できないときは、ダイヤグラムや線分図の基本が使いこなせるようになっているか、塾の教材や市販問題集で確認してみるといいと思います。
2問目は「数の規則性」に関する問題です。
大問4 整数の中から、3の倍数と7の倍数だけをすべて取り出して小さい順に並べると、次のようになります。
3、6、7、9、12、14、15、18、21、24、27、…
この数の列について、以下の問いに答えなさい。
(1) 1番目から9番目までの数の和を求めなさい。
(2) 77番目から85番目までの数の和を求めなさい。
(3) 1番目から99番目までの数の和を求めなさい。
(4) この数の列の中で連続して並ぶ99個の数を取り出し、その和を計算すると128205になりました。取り出した99個の数の中で最も小さい数は、数の列全体の中で何番目にありますか。
【解答例】
(1)
3と7の最小公倍数21までに、3の倍数が7個、7の倍数が3個あり、21が重複していまから、
7個+3個-1個=9個
あります。
(3+21)×7個÷2=84 … 3の倍数の和
(7+21)×3個÷2=42 … 7の倍数の和
84+42-21=105
(2)
9個の数の和は、次のように規則的に増えていきます。
従って77番目から85番目までの9個の和は、1番目から9番目までの数の和に21を85-9=76回加えた値になります。
105+21×76=1701
(別解)
77÷9=8あまり5
85÷9=9あまり4
より、5番目から13番目までの9個の数の和189に 21×9=189を8回加えても求めることができます。
189+189×8=1701
(3)
99番目÷9個=1
1組目
ですから、
11組目の和=1組目の和105+(21×9)×10=1995
です。
(105+1995)×11組÷2=11550
(4)
(2)と同じように99個の数の和が規則的に増えていくことを利用します。
11550+231×□=128205 → □=505
従って、取り出した99個の数の中で最も小さい数は、数の列全体の中で、
1番目+505=506番目
(2)で1個ずつずらした9個の数の和が21ずつ増えていく規則性を発見できると、(4)も短時間で処理することができるように「工夫された」問題です。
しかし、試験会場では別解のように1番目から9番目の和、10番目から18番目の和、…のように9個1組の和が189ずつ増えることを利用して解くことになったかもしれません。
その場合は(4)の処理には時間がかかると判断して「パス」をするという選択でもよかったと思います。
2019年度の麻布中学校の算数の入試問題は最後の大問5も、大問4のように規則性を発見できれば最後の小問(4)まで解くことができる問題でした。
数の規則性の学習をするときは、麻布中学校の2019年度の問題のような良問を解くこと、解いた後は時間が許す限り解き方の理由を学習して、規則性を発見する力を鍛えていくことができればいいなと思います。