幼児期の英才教育は必要?早期教育より大切なこと
私は長年、中学受験の専門家として多くの小学生の指導に関わってきました。
そのなかで、「受験勉強の前にこれを大切にしてほしかった…」と感じることがたくさんあります。
とりわけ、幼児期から小学校低学年のすごし方に関することが多いのです。
今回は、幼児期の英才教育について考えてみたいと思います。
早期英才教育はかえって害になる?
現在、さまざまな「早期教育」や「英才教育」のプログラムや教室がありますよね。
これらは「子どものため」とされていますが、子どものためにならないものが少なからずあります。
いろんな視点から、将来に悪影響を与えるものがあるといわざるを得ないのが実情です。
ある種のスポーツや楽器など、早く始めたほうが有利になるケースがあるのも事実です。
でも勉強に関するものは、極端に年齢に合わないものは弊害が大きいのではないかと感じています。
最近は、小学校入学前に読み書きができる子も多くいますね。
すでに九九も覚えているということもよくあります。
「小1の壁」という言葉があるように、「小学校に上がるまでに、どれくらいのことをできるようにさせればいいか」は親御さんたちの悩みのタネでもあります。
たしかに、教え方を工夫すれば、小学校低学年で教える内容を就学前の子どもに教えることはできます。
学習能力にいい影響が出るかどうかは未知数
乳児・幼児向け早期教育で、高速でカードを見せて暗記させ、答えさせるものがありますよね。
世界の国旗のイラストを描いたカードをすごいスピードでめくりながら子どもに見せて、同時に国名を読み上げていって、覚えさせるというような教育です。
実際に、やっとしゃべれるかどうかの幼児でも、練習を繰り返すうちに、大人でも知らないような国旗を見せると、国名を言えるようになります。
でも、これで「頭がよくなった」「能力が上がった」というのは、やや乱暴ではないでしょうか。
カードをすべて記憶した子どもはたくさんいるでしょうが、そのあとに記憶力が上がったか、学習能力にいい影響が出たかということについて、はっきりとした証明はできてないようです。
頭のよさを決めるのはスピードだけではありません。
子どもに早期教育を考えているなら、内容などをしっかり把握して慎重に選ぶようにしましょう。
集中力や持続力が求められるようになる
私が家庭教師として訪問するのは、おもに中学受験を目指す子どもがいるご家庭です。
教育に熱心な場合が多いので、子どもに幼児教育をやらせた経験があるケースも少なくありません。
こうした子どもたちのなかに「カンはいいけど、落ち着いて考えられない」という子がしばし見られます。
問題をひと目見て「あ、これはこうだ!」と、ある意味「勘頼み」ですぐに答えを出そうとするのです。
これで解けるうちはいいのですが、難易度が上がると勘では解けません。
自分で解法を模索し、整理し、作業して解答に行き着くことが必要です。
つまり、集中力や持続力が大切になってくるのです。
でも、早期教育で鍛えられる「高速」「反復」「反射」では、その部分はあまり鍛えられません。
このやり方がクセになってしまうと、子どもの知的好奇心や探究心を阻害してしまうように思います。
暗記や反復とは別の「勉強の楽しさ」
特に幼児期の子どもに、あれこれ与えたくなる親心はとてもわかります。
早期教育もそのひとつで、親御さんの目にはとても魅力的に映るかもしれません。
でも、そのタイミングが早すぎることによって、子ども自身が「勉強の楽しさ」を感じられないのは、もったいないことだと思います。
「わかったときの喜び」を知らないと、勉強はただただ苦痛なものになってしまいます。
極端な子どもが幼児期からさまざまなことを暗記したり、反射神経を鍛えることは、すぐに悪影響につながることはないでしょう。
でも、もっと親子にとって楽しく、充実した時間の中で学ぶ方法もあるのではないでしょうか。
暗記や反射の訓練だけでなく、多彩な日常経験を重ねながら子育てを楽しめたらいいですね。