知っておきたい「大手塾」と「個人塾」の活かし方
一言で「塾」と言っても、その規模感や長所や短所はそれぞれ違います。
少人数指導の個人塾と、大人数指導の大手進学塾を比較することによって、大手塾の特徴とその活かし方を見ていくことにしましょう。
個人塾の利点とその使い方
個人塾は1クラスの生徒数が3名~10名程度であることが多く、先生の目が個々の生徒に行き届きやすいという特徴があります。
どの先生にも、得意とする生徒レベルや受験校が多かれ少なかれあるものです。
塾に通うのは同じようなレベルのお子さんたちであることが多く、志望校がその塾の得意としている学校である場合には、個人塾の良さが発揮されます。
受験実績が評価されている個人塾は、たいてい受験対象校を1~2校に絞り込んでいるものです。
いくら熱意のある先生でも、生徒全員の志望校が異なる状況では良い結果を生み出すことはなかなかできません。
なぜなら一人ひとりのレベルに合わせて希望をかなえてあげようとすれば、生徒ごとに指導カリキュラムが必要になってしまうからです。
実際には、「一人ひとりに対応します」とうたいながら、先生が問題集のコピーを指導のたびに配るだけの個人塾が大半です。
そういう塾の多くではカリキュラムが存在しないため、入試までに必要な単元が完了しないことも珍しくありません。
関西の受験事情には対応できていない部分があるという問題はありますが、カリキュラムという点だけを見れば、やはり四谷大塚に準拠した個人塾の方が安心できるといえるでしょう。
個人塾への通学を検討する場合は、
- ①地元で評判がよいか?
- ②受験対象校が絞られているか?
- ③四谷大塚準拠塾か?
という点に注意を払うことをお勧めします。
熱意と優れた指導技術を併せ持った先生が開いている個人塾では、お子さん一人ひとりの習得状況に応じた指導が行えますので、基本がすっぽりと抜けたまま応用内容を指導するということはありません。
十数年前までは、きめ細かい指導が受けられると評判の個人塾がある地域には、大手塾の教室を新たに開いてもなかなか生徒が集まらなかったものです。
ただ残念なことに、個人塾はあくまで先生自身の力量が全てを決めますので、塾長先生が歳を取って引退するとなれば塾自体が閉鎖されることが珍しくありません。
その分、私立中学受験における大手塾のシェアが高まっていくことになります。
大手進学塾の利点とその使い方
一方、大手塾はカリキュラム消化の点では不安が少なくなっています。
大手塾の多くはスパイラル(らせん)式といって、入試までに何度も同じテーマが学習できるように組まれています。
この方式は浜学園が生みの親といわれますが、大手塾でこぞって採用されている手法です。
その理由は、小4の最初に入塾しなくても小5、小6にまた同じ単元に取り組むため、途中入塾の生徒の不安を最小限にとどめて入塾できることができるという点にあります。
しかしながら、実際は同じテーマを学習するといっても、一度扱った単元の基本の確認をもう一度指導してもらえるわけではありません。
クラス帯にもよりますが、少なくとも上位のクラスでは、基本は身についたことを前提として応用的な内容が重ねられていきます。
「スパイラル式」という言葉のイメージだけに寄りかかって、未習の単元が次にやってくる時期を待っていると当てが外れるということもあるので注意しましょう。
首都圏では、SAPIX、日能研、四谷大塚、早稲田アカデミー。
関西圏では、浜学園、希学園、日能研、馬渕教室といった進学塾が目立つ存在です。
有力な個人塾が閉鎖されていく現状を考えれば、中学受験の対策としては大手進学塾を中心に考えることになるでしょう。
集団授業型の大手進学塾の強みは、各中学校へ合格するためのノウハウが確立されている点にあると言われます。
- 合格するためのカリキュラムが完成されている。
- 合格させるための指導力を持った講師が多数在籍している。
- ライバルが多く集まっている。
といった点が塾の宣伝にもあふれていますし、保護者の方が期待を寄せている点でもあります。
カリキュラムや、テキスト・プリント教材、模擬試験はノウハウの結晶です。
中学入試の出題傾向は毎年変動していくものですから、それに応じてカリキュラムや教材、模試傾向は毎年のように微修正が重ねられます。
時には全面改訂がなされる場合もあります。
この情報分析力とカリキュラム、教材作成力こそが大手塾の力量を左右する要素であることは間違いありません。
大手進学塾で気をつけておきたい落とし穴
ただし、塾のカリキュラムや教材がいくら質の高いものであったとしても、それがお子さんの受験成果を保証するものではありません。
お子さんの現在のレベルにあっているのか、お子さんの学習スタイルに合っているのかという点も、考慮しなければならないからです。
いくら良い授業であっても授業についていけなければ意味はありません。
レベルが合っていても、塾の方針や講師の授業スタイルがお子さんのやる気をそぐものであれば、やはり効果は期待できません。
個人塾と比べると、集団授業はどうしても面倒見の悪い面が出てきます。
授業でわからないところがあっても、基本的には自分で(家庭で)なんとか対処しないといけません。
合格実績を出している進学塾では、宿題の量も多く、授業内容を理解できずに宿題をこなすのはお子さんにとてつもない負荷をかけることになってしまいます。
学習が上手く回らなくなれば、ライバルの存在という大手塾のメリットがデメリットに変化してしまいます。
つまり、ライバルが多い分、「自分はダメだ」と劣等感を持ってしまいやすいのです。
小学生の時期に自分を否定する気持ちを植えつけてしまえば、中学受験どころかこれからの人生にも悪い影響を与えることになってしまいます。
知っておきたい大手進学塾のカリキュラム
大手塾が「スパイラル方式なので途中入塾でも安心です」というのはあくまでも宣伝文句。実際にはどの塾も、小4からの3年間をかけて志望校合格に必要な知識を与え、学力を育てていくカリキュラムになっています。
その3年間の受験勉強期間について、どのタイミングで、どの単元の、どういう難易度の問題を生徒に学習させるのかが、各塾のノウハウなのです。
あくまでも、
塾が準備した計画にお子さんが合わせていくことで効果が出るように設計されており、塾がお子さんの状態に合わせようとはしてくれません。
ですから大手塾の講師は、塾が計画したカリキュラムや指導方針に子供たちが合わせてくるように、子供たちの気持ちを盛り上げる努力をします。
特に子供たちの気持ちを強烈に盛り上げていく、「カリスマ」タイプの先生の中には、
「灘中の問題が出来ればどこの中学の問題でも解ける」
といって、難しい学校の入試問題をいきなり解かせる人もいます。
一昔前の個人塾でよく見られたタイプですが、大手塾では今でもこのタイプの人が最難関コースを担当(たいていは算数科)していることが珍しくありません。
塾によっては、「思考力を高める」という名目で、灘中の難問1題に30分以上かけさせてお子さんにただひたすら考えさせる方針をとっているところもあります。
灘中の入試問題が、国語・算数・理科いずれをとっても高い難度であることはもちろんのことです。しかし、
「灘中の問題が出来ればどこの中学の問題でも解ける」
わけではもちろんありません。そもそも解けなくていい問題が大半です。
単元知識の面でも学校ごとに偏りがありますし、逆に偏差値的には灘中より下位の学校が灘中より難度が高い入試問題を出題する場合ももちろんあります。
灘中(関東であれば麻布・開成・筑駒)の入試傾向のみを把握していても他校全てに対応できるはずがないことは、言うまでもないことです。
塾の説明会で注目しておきたいポイント
また、大手塾には多くの講師が在籍しているため、中には派手な言動で目立つことを好むパフォーマンスタイプの先生もいます。
塾の説明会に参加する時には、
- その先生がどのクラス帯、どの志望校別コースを担当しているのか?
- これまでの指導実績は実際にはどの程度なのか?
- 指導成果から見て得意にしている受験校はどこなのか?
といった点に留意して、お子さんの状況に合っているのかどうかを見極めるようにしたいものです。
大手塾との相性に不安が残る場合には、少人数の個人塾でしっかり面倒をみてもらう方が良いのでは?という選択肢を意識の中に持っておくことも『かしこい塾のつかい方』だといえるでしょう。